うたかた

オタクの観劇メモです。

「天才作曲家~Composer~」

One on One オリジナルミュージカル 30th note「天才作曲家~Composer~」

六本木トリコロールシアター
2019年1月30日(水)~2月3日(日)

作・演出・音楽:浅井さやか
出演:
法月康平、染谷洸太、坂口湧久
岡村さやか、蔵重美恵、千田阿紗子、田宮華苗
内藤大希

演奏:はんだすなお、冨田千晴(チェロ)

 

One on Oneさんのcodeシリーズ第1弾の再演だそうです。
codeシリーズは偉人×童話をモチーフにした作品で、「Composer」はモーツァルト×人魚姫だそうです。

配役は下記
『男』:法月くん
サリエリ:染谷さん
『闇』:坂口くん
『物語る者』:岡村さん
魔女:蔵重さん
『女』:千田さん
人魚姫:田宮さん
モーツァルト:内藤さん

 

追加の楽曲もあるようですが、最近作られたOne作品と同様に浅井さやかさんらしい楽曲、世界観、それを構成する少数精鋭のキャスト(グランドミュージカル出演経験者だらけで小劇場での公演なので、震えるぐらい迫力あります)

今回、One作品でお馴染みのメンバーに加えて、Oneで初めてお見かけしたのは法月くん、坂口くんあたりでしょうか。
声質の高い坂口くん。声が可愛くて個人的にとても好きです。
キー高めなキャストが揃っている中で、更にハイトーンが綺麗な法月くんが主演。

「Composer」はとても華やかな歌声だらけで、歌を聴くとテンションが上がります。

そして優しくて切なくて不思議なファンタジー…そんなOne on Oneワールドにどっぷりと浸りました!
色々と謎めいた部分を考えるのも楽しい作品でした。公演期間が短かったのがとても惜しまれます…。

 

ここから、「Composer」の謎な部分について考えた事をざっとまとめ。
公演から随分と経過してからの投稿になってしまった原因です。未だにまとめられなくて断念しました。
簡単に調べた情報だけで書いてしまいますので齟齬がありましたら申し訳ありません。

 

○『闇』と「モーツァルト」について
天才の作り方とは。
作中でも語られているように『天才』とは、通常では使われていない脳の力を解放する事。

史実をもとに考えると、モーツァルト自閉症スペクトラムで、サヴァン症候群である…という話が前提なのかと思われます。
「Composer」の作中で明言はされていないですが「音を視覚に変換できる」「音楽が溢れだす」という部分にサヴァン症候群らしさと「共感覚」を持っているように感じました。
ただ、実際に残されているモーツァルトの手紙の「脈絡のない言葉が突然出てくる」とか、他者との距離感とか、そういった特徴はあまり作中において見受けられませんでした。

そこで、未知なる『闇』との出会いについて のタイミングについてです。
作中でモーツァルトは幼少期に三日三晩高熱に見舞われ、そこで『闇』が見えるようになったとの事でした。モーツァルトが幼少期に罹ったとされるのはリウマチ熱。
高熱そのものが脳にダメージを与える事は無いとされていますが、リウマチ熱は重篤なケースで中枢神経に影響を及ぼす事があるとされているようです。

サヴァン症候群そのものに明確な基準はないようですが、サヴァンの能力は左半球脳のダメージ、中枢神経系のダメージが影響するのではないかという説があるとの事。
恐らく『Composer』におけるモーツァルトはあまり自閉症の特徴がなく、後天的にサヴァン症候群になったのかなと思いました。

 

『開けてはいけない扉』とは
通常使用する脳と、使われていない脳(『闇』)を繋ぐ回路。

 

『闇』とは
使われていない脳の一部の擬人化。
あるいは、モーツァルトが「音楽が溢れだす」、サリエリに「作曲をする時に何を考えているの?」と聞いていたように無心で作曲をしていたのかもしれません。
あるいは『闇』に操られるように音楽を生み出していたのかもしれない。(「Composer」におけるモーツァルトの最期を観ると、操られていた説でもいいのかと思われます。)

 

○『男』と「サリエリ」と「人魚姫」について
優秀でありながらも、『彼ら(彼女ら)が本当に愛して欲しい』と願っている存在から愛してもらえない存在。
どこか境遇が似ているようでいて、そして結末が大きく異なる彼ら。
『男』と「サリエリ」の違いは『薬』を飲んだか飲まないか。ではないかと思います。

 

『薬(毒)』は『人魚姫の泡』
小瓶の中身はサリエリにとっては『薬』になるが、モーツァルトにとっては『毒』になる…といった表現が本編であったかと思います。
また最後に『男』は昏睡状態に陥り、『物語る者』の姿を見る事ができるようになります。
モーツァルトが高熱を出して『闇』を見る事ができるようになった時と『男』の状況が重なります。
『薬』を飲む事で、『男』の辿る運命が「サリエリ」から「モーツァルト」に変化した。

 

○「蝉」について
「初めて蝉が鳴いた日に鎮魂歌の依頼を受けたモーツァルト」、「蝉の鳴き声が鎮魂歌に聞こえる『男』」、「鳴き声が喜びの鎮魂歌、讃歌に聞こえる『女』」
作中に登場する蝉の存在は、登場人物たちにとって様々な役割を果たしているのだなと思うのですがラスト『闇』の「羽化」(と表現して良いのか…)がとても印象的でした。

 

『女』が言うように蝉は光を浴びる事のできる数日間に力いっぱい声を響かせている。
長く地面の中から旅立つ日を待ち、旅立てば数日で寿命の尽きる蝉は、短いからこそ命を燃やすように生きた証明を残しているのではないかと。

自分の生きた証明を残すために、「曲を作る事に苦しむ事」を体感したかったモーツァルトモーツァルトが蝉説)
『闇』に頼らず最期に「鎮魂歌」を作曲しようと抗ったモーツァルトへの『闇』からの「讃歌」(『闇』が蝉説)


どちらも有り得そうかなと思ったので最初に書いた「『闇』はモーツァルトの一部説」も合わせて「Composer」における「蝉」とは「蝉≒モーツァルト≒『闇』」説で、個人的には解釈しています。

そして全ては本編では描かれない『男』の結末へ繋がっているのではないかと思いました。
(この解釈だと『男』に死亡フラグ立ってますね)