うたかた

オタクの観劇メモです。

a song cycle 『sign』

a song cycle 『sign

【期間】2019年09月10日(火) ~ 09月15日(日)
【会場】d-倉庫
【脚本・作詞・作曲・演出】藤倉梓

【出演】
Dawn
斎藤准一郎/西川大貴/若松渓太
遠山さやか/彩橋みゆ/熊澤沙穂

Dusk
村井成仁/加賀谷真聡/荒田至法
清水彩花/小林風花/小此木まり




sign」は何度か公演を行っているようです。パンフレットにこれまでの経緯が載っていました。
(過去の出演情報を調べてみたら、観てみたかった~~!と悶える豪華さだった。)

オムニバス形式のソングサイクルとのことで
“ソングサイクル”とは…
オフ・ブロードウェイ界隈でこの10 年ほどの間に広まった新しい形式/ジャンルのショウ。
ある1つのテーマを設定し、1 曲1 話完結型のオムニバス形式でストーリー紡ぐミュージカルのこと。
だそうです。
sign」は、主に日本史に残る出来事を題材とした短編のミュージカル(大正〜平成が多いかな?)
ひとつひとつ完結していて世界観も違うので、ひとつだけ抜き出して歌う事もできる。「物語のひとつひとつが繋がって今の時代に繋がっている」というラストに辿り着くので全体通してもまとまりも良い。



以下、ざっくりと各作品の感想と備忘録
Dawnしか観ていないので偏りますが

○「トウキョウの空のした」
Dawn 彩橋みゆ/Dusk 小林風花
○「Send me a sign
全員

OPは凛と鈴の音のような可愛らしい声の彩橋さんでスタート。
続くSend me a signで斎藤さんのスッと通った爽やかな高音がオープニングらしく気持ち良い。


○「coffee」
Dawn 西川大貴/Dusk 加賀谷真聡
ジャズ感のあるリズム。似合いますね。
歌に出てくる「飲んだコーヒーの数で1年を数える人がいる…」はrentですね。


○「雨天決行1〜3」
Dawn 斎藤准一郎/若松渓太/遠山さやか/彩橋みゆ
Dusk 村井成仁/荒田至法/清水彩花/小林風花

昭和 三億円事件…を元にしたお話ですね。
学生運動を起こす方々とは違い知略を巡らせて問題提起をしていく」という意志で事件を起こしたという設定というところですかね。(手をつけられていないままの三億円とかが理由でしょうか。)
元となっている事件の、真相が謎のままなのでそこらの解釈は自由度が高い。
疾走感のあるナンバーがメインです。格好良い。

ところで「ゲバ棒」(学生運動で武器として使っていた角材の事らしいです)を「拾ってきてしまった」若松さんの事を彩橋さんが「犬じゃないんだから〜!」と言っていたのは「旅」のハチ公役に繋がるからでしょうか?


○「旅」
Dawn 若松渓太/Dusk 村井成仁

大正~昭和「忠犬 ハチ公」として有名な秋田犬ハチ
ハチからの目線で飼い主であった「先生」上野英三郎氏とのお話です。ファンタジーな感じ。
パンフレット改めて見て思ったんですが役とそれぞれのチームのメンバーが対になっていると思っていたけどそうでもないんですね。

若松さんの声の清潭さとかお顔の雰囲気が和犬っぽいので、ああ…似合うな…と思いました。
ラストのステップに座るのは、銅像のハチ公のイメージなんですよね。真っ直ぐと決意を新たにしたような表情になる若松さんが印象的でした。
とても良い表情をされる方。


○「MVP」
Dawn 斎藤准一郎/Dusk 荒田至法

戦前の野球選手、沢村栄治さんのお話。
どうも自分の中で戦争の犠牲になってしまった投手というネガティブなイメージが強い方ですが、このナンバーでは爽やかに野球を楽しんでいる沢村選手と野球を楽しむ客席の歌になっているので嬉しい。
綺麗な高音が爽やかで斎藤さんに合う!


○「寝巻會」
Dawn 遠山さやか/彩橋みゆ/熊澤沙穂
Dusk 清水彩花/小林風花/小此木まり

「パジャマパーティー」です。
登場人物は、原口鶴子、松井須磨子柳原白蓮ら大正に活躍された女性。
ベースになっている寝巻會は、原口鶴子さんの留学時代の綴った著書を元にしているようです。
(ざっと調べただけで原口さん以外に留学したらしい記載は無かったので、本当に同世代という括りですね)

振付や歌の雰囲気が可愛らしい。
ボヘミアン・ラブで寝巻會の振付一部やってます。これも可愛い。)

モデルとなった彼女らの事を知らずに見ても楽しめるのですが、3人の波瀾万丈な人生を知ってからあの軽妙な音楽を聴くとギャップに震えますが、それはそれで楽しいかも。


○「Trump,Trap,Triumph!」
Dawn 若松渓太/熊澤沙穂
Dusk 荒田至法/清水彩花

息抜き的なナンバー
お客様にトランプを引いて頂いて、そのトランプが何かを当てるマジックをする歌です。
仕掛けがあるのは分かるんですが理屈は分からないです。
あと歌も何パターンかあるみたいですね。

引いたカードの数字の語呂合わせで歌詞に沿っていて、2人でカードを引きながら熊澤さんが歌います。
若松さんが歌の間、凄く表情豊かで楽しいです。愛嬌のある顔をする方だなあと思います。
若松さんと熊澤さんは並ぶとお姉さんと弟のような印象になったけど恐らく同じくらいの年代か。


○「ボヘミアン・ラブ!」
全員

学生さんが一人でリアルダーツの旅に出た…みたいなお話。
トランプマジックからの明るいテンションのまま、軽妙で楽しくなる曲。ダンスも可愛い。
歌の途中で出てくる「キムって若造…」は、サイゴンと関係あるのかな?

個人的に、最後の「桜を愛でながら食べたおにぎり」の仕草に個性がよく出ていて好きです。


○「夢追い」
Dawn 西川大貴/遠山さやか
Dusk 荒田至法/清水彩花

竹久夢二とお葉(佐々木カネヨ)の別れ話
破局したのは大正14年頃だそうです。
ボヘミアンラブの疾走感からテンションのアップダウンが凄い。
遠山さんのしっとりした歌声と、西川くんの声が良く合っていて、耽美だな~という感じ。
夢追いの前に遠山さんがアカペラで歌う「宵待草」も美しいです。

ところで余談ですが寝巻會に出てくる松井須磨子さんと関係のあった島村抱月氏、を調べていたら竹久夢二のキーワードが出てきたから関わりあるんですね。
松井須磨子さん達よりちょっとだけ後ろの年代。


○「Resign」
Dawn 熊澤沙穂/Dusk 小林風花

平成の永田町 新人記者のお話
熊澤さんの歌声は高音も綺麗ですが、低めの音が民謡的というのかソウルフルな印象になる方だと思うのでとても好きです。
「人生の選択は間違っていなかったか?」と悩む揺らぎと、決意した時に力強くなる歌声。
演じられていたのは若手記者ですが、どの世代でも思い当たる永遠のテーマだなと思い、とても刺さりました。


○「TKS」
Dawn 斎藤准一郎/遠山さやか
Dusk 加賀谷真聡/清水彩花

ある意味で一番、客席の反応が良い曲(笑)
キャストさん的にはけっこうテンション上げていかないといけない感じの曲だから大変なのかな?

東京で一番人が行き交う駅のホテル(の従業員の話)
パンフレットには歌舞伎町って載ってるけど、歌の中で具体的に地名出してましたっけ?


○「で、ミゼラブル」
Dawn 彩橋みゆ/Dusk 小此木まり
全員

みんな大好きな日比谷のお話

ある意味で一番、客席の反応が良い曲(2回目)
音楽だけでなく照明も本家を彷彿とさせるので楽しい。
舞台俳優あるあるが「あるある」なのかは分かりませんが、某ミュージカルのパロディが秀逸。客席の反応の良さは、パロディ本家のファンの多さを感じさせます。

本家出演経験のあるキャストさんは「でミゼ」をどう感じられているのか…笑


○「ジュヴナイル」
Dawn 西川大貴/Dusk 加賀谷真聡

平成の千駄木の設定らしいです。

今回「sign」を観るポイントにしていた曲です。
むしろ観るまで「ジュヴナイル」を歌うという事しか情報拾えていなかった。
2年前、たまたま行った羽田のかららんライブで「ジュヴナイル」を聴いてからすっかり西川くんの声にハマってしまったきっかけの一曲。改めて素敵な歌声だと思いました。
「ジュヴナイル」を聴くと西川くんの空気感は舞台俳優さんというよりはアーティスト寄りだなあと感じます。

歌は「若くしてこの世を去ったアーティストに捧ぐ歌」という事で。歌詞に出てきた人物全部調べようとしたら全然時間なかったです。
YouTubeに過去の公演の映像が上がっているので時間をみてまた調べようかなと。


○「手紙」
Dawn 斎藤准一郎/若松渓太/彩橋みゆ/熊澤沙穂
Dusk 村井成仁/荒田至法/小林風花/小此木まり

昭和19年硫黄島
硫黄島からの手紙」で知られる栗林忠道氏と、その家族である長男の太郎、次女の「たこちゃん」(たか子)、奥様(義井)に宛てた手紙の物語。朗読劇風です。
栗林忠道氏を若松さんが、義井さんを彩橋さんが演じました。
(太郎の手紙を斎藤さん、たか子の手紙を熊澤さんが読み上げています)
3人に宛てた手紙それぞれ文章の使い分けされていて栗林氏は文章を書く心得がある方なのかなと思っていたら、元々はジャーナリスト志望だったそうで。

「たこちゃん」に書かれた手紙が書かれたのが1944年9月だったかと思うので、硫黄島では地下壕を建設している最中でしょうか。
パンフレットのタイトルが「硫黄島 1945」ですが、硫黄島の戦いが1945年3月なので、設定としては1944年かな?ただ義井さんに宛てた手紙が遺書同然だったので1945年なのか。
また改めて栗林氏の手紙の資料調べてみたいと思います。

50代の栗林氏を演じるのが若松さんなのか…とシルエットだけ見た時には少し不思議に思っていたのですが歌声を聴いて納得でした。「旅」の時よりも重厚な雰囲気を出す歌声で「手紙」とよく合っています。
そして義井さんを演じた彩橋さんも。真っ直ぐで良いのです。


○「トウキョウの空のした2」
Dawn 熊澤沙穂/Dusk 小此木まり
○「Finale」
○「BOWS」
全員

ラストは熊澤さんから。
震災後に、公園で、ここからどう進んでいくか考えている。というような設定かと思います。
力強く、明るい歌声の熊澤さんのソロが良い。

また「Send me a sign」もそうでしたがfinale~で演奏が途切れキャストさんのアカペラがあります。
全体を通じてミュージカルらしさが全開ではないのですがアカペラになってからの迫力が圧巻で「歌を浴びている」という感覚になると言いますか、高揚感があります。


今回、オムニバス形式のため設定を追う方に集中しがちです。
ストーリーはシンプルですが、時代背景や設定を知る事ができれば一層楽しめるのではないかと思いました。
是非また再演される時を楽しみにしています。


9/25追記:
「手紙」栗林氏の手紙について
sign」で読まれていたのは、幾つかの手紙をまとめたもののようでした。

「遺骨は帰らぬだろうから墓地の問題は後回しでよいです。
~長い間ほんとうによく仕えてくれて有難く思っています。」
の部分は、1月21日に書かれたものだそうです。

遺書としてはその後に送っている~との記載もあるようなので、栗林氏としては遺書ではないけれど、その中のひとつ・という所でしょうか。
硫黄島の戦い(アメリカ軍の上陸)はその年の2月の事でした。


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a song cycle『sign