うたかた

オタクの観劇メモです。

オリジナル・ミュージカル「DAY ZERO」

原作
Based on the screenplay DAY ZERO by Robert Malkani

上演台本:高橋知伽江
作曲・音楽監督:深沢桂子
演出:吉原光夫

出演:
福田悠太 上口耕平 内藤大希
梅田彩佳 谷口あかり 西川大貴

ギター:中村康彦

 

プレビュー公演:2018年5月25日(金)~27日(日)
東京公演:2018年5月31日(木)~6月24日(日)
愛知公演:2018年6月26日(火)
大阪公演:2018年6月28日(木)・ 29日(金)

 

 

 

水戸芸術館 ACM劇場で行われたプレビュー公演
DDD 青山クロスシアターで行われた東京公演

観劇しました。
 
設定は2020年…徴兵制が復活し、制限が35歳まで引き上げられた近未来のアメリ
34歳の幼馴染3人に同時に出征命令が下った。それぞれ立場からの出征(Day Zero)までの21日間の物語。

原作となった映画は2007年に公開されたアメリカの作品です。
セットや雰囲気から何となくノスタルジックな印象を受けるのでパラレルワールドの2020年だなあと思いながら観ていました。

そして作中で度々流れる戦況報道から戦争に出る事=限りなく死が身近なのだと、出征をする事が死に直結した世界なのだと思いました。


ところで公演前・後のアナウンスが西川くんなのですが、アナウンスの所々にノイズが入ります。そして本編でも西川くんはアナウンサー、戦況報道のキャスター役を兼ねています。公演前後のアナウンスが西川くんなのは、観客をDAY ZEROの世界観へ導入する役割なのかなと。
音のつながりで気になったのが、オープニングとラストに鳴り響く衝撃音と、サイレンについて。
ラストにアーロンはセンター奥へ向かい飛び降り自殺を図り、衝撃音、暗転、サイレンが鳴り響き終わる。オープニングは衝撃音、サイレンが鳴り響き、暗転、センター前に座るアーロンの独白から物語が始まる。さてどちらが始まりなのでしょうね?音のギミックが興味深いです。

思えばストーリーテラーを担うアーロンはラストに近付くにつれ精神崩壊を起こすのに、ナレーションのアーロンは実に他人事のように語るのはこの物語そのものが「既に亡くなっているアーロンの回顧録」なのかもしれないなと思いました。

「ナレーションのアーロン」は「別の場所にいる登場人物」に目線を配るなど、少し違う次元を生きている存在のようです。

 

それぞれキャストさんについて

 

ジョージ・リフキン(弁護士):福田悠太さん

ジョージは良くも悪くも正直者。要領が良さそうなのに実はそうでもない。

どうしようもないのに憎めない感じがあるのは、福田さんが誠実に演じられているからでしょうか。

Day9(出征まであと9日)からの演技が見所。

告白大会での、言い淀み、葛藤の仕方が回ごとに違う。

精神状態の乱れと髪型が連動しているという所にぐっときました。

とてもスタイルが良くてスーツ映えも舞台映えもされる方でした。

 

ジェームス・ディクソン(タクシー運転手):上口耕平さん

一番共感を得やすいのは、彼かもしれない。

上口さん、「FUN HOME」で一度拝見して、今回2度目の拝見。

初日近い頃は福田さんを歌の面でサポートされているような印象を受けました。

演技も歌も堅実で、職人さんって感じの方だなと感じました。

ジェームスの心がゆらいだ時の歌声、表情がとても真に迫る、観ていてぐっとくる表情をされる方でした・・・。

 

アーロン・フェラー(小説家):内藤大希さん

アーロンの「出征、34になって!?」に対してジェームスが言う「おまえは二十歳くらいにしか見えない、大丈夫だ」は、あて書きなのか。
(映画観ましたが全編英語なのでニュアンスでしか分からず・・・)

 

序盤の陽気で(ジェームスに)甘えたな所から、終盤の精神的に崩壊して光を閉ざされた瞬間までの、演技とそれを情感を込めて歌う事ができる。最も適任な方だろうなと思いました。

そして公演中で一番、精神的にしんどいだろうなと思いました・・・。

東京千秋楽では劇中ちょっとしたトラブルで(?)西川くんと一緒に笑い出してしまう箇所があったのですが、和やかな所を観る事ができてちょっと安心しました。 

 

パトリシア(女子学生)、他:梅田彩佳さん

パトリシアは観客に対して、身近な人が召集されてしまったら?という投げかけをする大切な存在。ジェームスに語り掛けているようで、観客への問いかけなのでしょうね。

主にパトリシアがメインですが、そのほかにニュースキャスター、ジョージの後輩弁護士(ナンシー)も兼ねています。

「今度は抗議デモにも参加するつもり」と言ったパトリシアを演じている梅田さんがニュースキャスターの際には「日に日に抗議デモの参加者が増えている」という報道を読み上げる所に繋がりを感じました。

ちなみにパトリシアも理論派の戦争反対派ですが、ナンシーも理論派の戦争反対派。

華やかな声質で、可愛らしい方でした。実際はかなり小柄なようですがしゅっとしていて、160cmくらいありそうな雰囲気でした!

NMBの方なのですね。

 

モリージョージ・リフキンの妻)、ジェシカ:谷口あかりさん

モリーがメインですが、そのほかにニュースキャスター、ジェシカを兼ねています。

ジョージに翻弄される女性 2人ですね。

とても華奢で小柄なのに力強くて惹かれる歌声。谷口さんも歌に情感を込めて歌われる方。

梅田さんとのユニゾンのバランスの調整まで取られていたように思います・・・。

そしてどの公演でも大粒の涙を流されていて、ついつい目がいってしまうのです。

とても存在感のある方でした。

 

カウンセラー ほか:西川大貴さん

メイン3人を取り巻く役…10役ほど担います。

公演毎にそれぞれ役のアプローチを変えながら演じられているようで、とても見応えがありました。

 

象徴的な曲の歌い出しを歌われていました。

西川くんの歌声は、世界観へ観客を惹き込む魅力があるなと思います。

アカペラでアーロンに「戦うか?逃げ出せるのか?」と語りかけるように歌う所が印象的でした。

 

ちなみにゲイバーの客について考えすぎたので別記事で考察してみました(笑) 

sfor98.hatenablog.com

 

 


 

6人という少人数キャストで、演奏はギターだけで行われる重厚なミュージカル。

元・四季の谷口さん、様々なジャンルのミュージカルの経験がある大希くん、上口さん、西川くん、元々ミュージカル畑ではない福田さん、梅田さん。

色んな歌い方の方が共演していてそれが良いんだろうなと思いました。

それを活かした深沢さんの音楽は、聴けば聴くほど癖になるという素敵な曲ばかりです。CD出して頂きたいなあ・・・。

(上口さん、今回ミュージカル歌いからポップス歌いまでされていてどちらも好きでした)

 

セットの造りがとても面白くて、床から収納できるテーブルが飛び出してきたり、壁からソファや簡易的な椅子が出てきたり、小道具が収納されていたり。

コンパクトな劇場で、さり気なくシンプルな場面転換ができていて、場面転換のシーンも観ていて面白かったです。

 

また、ギターの中村さんがキャストの息遣いをよく見ながら演奏されていて、ジャズ的というかアドリブが求められる演奏をされるギタリストの方、本当に凄いと思いました。

 

メッセージ性の強い作品ではあるのですが、高橋さんの訴えかけも光夫さんの演出も押しつけがましくはなく、色々と考える事ができるストーリーだなと思いました。

映画の見せにくい部分を上手に隠す光夫さんの演出はとても素敵だと思いました(笑)