うたかた

オタクの観劇メモです。

舞台『野球』飛行機雲のホームラン~Homerun of Contrail

「舞台『野球』飛行機雲のホームラン~Homerun of Contrail」

東京公演: サンシャイン劇場
大阪公演: 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

作・演出:西田大輔
野球監修:桑田真澄
音楽:笹川美和

テーマソング:笹川美和「蝉時雨」
挿入歌:笹川美和サンクチュアリ」「光とは」「止めないで」「誘い」

出演:
安西慎太郎
多和田秀弥、永瀬匡小野塚勇人、松本岳、白又敦、小西成弥、伊崎龍次郎、松井勇歩、永田聖一朗、林田航平、村田洋二郎、田中良子
内藤大希/松田凌(友情出演、Wキャスト)
藤木孝

 

 

 

Wキャスト 内藤さんの回を観劇しました。


物語は1944年 特攻隊への志願を余儀なくされた予科練生たち(志願しないと罰せられてしまうのです)。出発前日の『最後の一日』(自由に過ごす事を許された一日)に紅白試合を行う事を希望した彼らと、周囲の人々はどのように過ごすのか、の物語。

キャストに特撮出演経験のある方が多いなと思ったのと、野球監修という事で桑田さんが監修されているのでどのような展開になるのかな?と思っていました。
ストーリー展開は紅白試合を中心に、過去の物語がクロスしていくような展開。
舞台ではボールが光の演出で表現されたり、実際のボールが投げられたり表現は様々です。
特撮出演経験があるキャストが多いのは動けるキャストさんを選定した結果なのでしょうかね?キャストもナイン全員が出演しているのではなく、劇場なので広さも足りないですが内野が客席通路に配置されたシーンがあったりと凝っていて、試合展開も面白かったです。

 

作品について...と言いますか、取り扱われた時代設定がとてもデリケートで不勉強な自分が言える事もないのですが。

会沢商業学校の彼らの底抜けの明るさであったり、試合の最後に唐沢(多和田さん)がデッドボールにより負傷して試合は棄権します(戦時下のルールにより途中交代が認められていない)ので唐沢を兵役免除して下さいと中佐に掛け合うシーンであったり、不思議に思うシーンもあったのですが、そもそも作品が戦争の批判や戦争そのものの物語...ではなく『限りある中で彼らが何を残したいか』が語られた物語なのではないかと思ったのですね。
伏ヶ丘商業学校の彼らが『最後の一日』の時に「死」について話す事を止めようと約束していたのと同じで、会沢商業学校の彼らは明るく振る舞おうと暗黙の了解をしていたのかなと。回想で浜岡(小西さん)が「自分を偽っているんだ、この学校に来るまで明るくもなかった...」というようなセリフがあったのですが、『最後の一日』の会沢の彼らも同じように偽っていたような気がしてなりませんでした。

また、唐沢の兵役免除を会沢・伏ヶ丘両校の選手が掛け合うシーンについて...
とても個人的な話なのですが、作中でも話題に挙がった【沢村栄治選手】についてこの作品を観る以前に調べた事がありまして、手榴弾を投げた事により肩を痛めた事や、銃弾での負傷でマラリアに感染して倒れられた話を読んでやり切れない思いになった事を思い出しました。
彼らからしてみたら腕を怪我している唐沢の事を沢村選手と重ねる事もあるでしょうし、このまま志願すれば特攻隊となり命を落とす事になってしまう。優秀な選手を戦場ではなく球場に立たせたいと願う気持ちがあったのではないかと思いました。『最後の一日』に野球をしたいと願い「このまま試合をしていたい」と願う程に野球を愛した彼らなら、尚更に。
そして作・演出を務められた西田さんの願いだったのかなと。
それこそ舞台『野球』が描きたかったのは唐沢のような選手の未来だったのかなと、そんな事を思っていました。

 

6月に観劇した『DAY ZERO』のテーマであったであろう「召集令状が届いたら(これまでの日常が終わってしまうなら)あなたはカウントダウンまでどうやって過ごしますか?」に対する結論が未だに見出だせていなかったのですが、『野球』の彼らの生き方はその一つのアンサーだなと、関係のない作品同士ではあるのですが繋がりを感じながら観ていました。
この作品を観劇できて、良かったと思います。